至福の夢を見た。
社さんがあんなことを言ったせいだろうか。

昨日事務所で最上さんと会った時に連想ゲームと言われて紙に書いた俺の最後の回答は
『最上さん』
だった。社さんの回答のような一般的な物を書いておけばよかったけど、あの時は不思議と最上さんに直結する内容しか思い浮かばず。最初に連想ゲームと言われたが、要は「心理テスト」だったらしい。心理テストというのは占いと同類で信用性の無いものだとばかり思っていたが、実は侮れないものなのかもしれない。最上さんへの想いは『憧れ』と置き換えて彼女には誤魔化したが社さんにはバレバレだった。今後は同じような事があっても他の誰にも気付かれないようにしなければ、と思う。
しかし、夢に見た最上さんは。いつかテレビで見た女優のように衣服を身につけず。どこから現れたのか判らないが、俺が寝室のドアを開けるとベッドに腰掛けており、身体には緋色の太いリボンが巻き付けられていた。

窓の向こうに見えるもの・・・蓮妄想


「私をどうぞ。敦賀さんの21歳の誕生日プレゼントです。受け取って下さい・・・ね?」

俺の胸を射るような艶のある瞳をした最上さん。普段見慣れているドピンクのラブミーつなぎからは想像できないセミヌード姿だった。スラリと手足が長くきゅっと引き締まった足首は普段垣間見ていたのだが、スレンダー体型ゆえに胸は控え目だろうと想像していた。でも実際に見た彼女のそれは非常に形が美しく、身体全体の凹凸が実にバランス良い。俺はモデル業もやっているからヌードの女性の姿なんて見慣れている。だからどんなにスタイルが良くても動じることなど無かったはずなのに、好きな女性のヌードとなると全く違うようだ。肝腎な部分はリボンで隠されていたのが悔やまれるが、あの姿でも十分美しく俺を魅了した。

吸い込まれるように近づくと、彼女は手を俺に差し伸べ、余裕のある笑みを浮かべており、俺は年上であることも忘れ、初恋の彼女を前に震えながら手を取り、誘う唇に引き込まれるようにそっと唇を重ねた後、リボンをほどき彼女自身に優しく触れ、彼女の中に入ろうとしたのだが。
思いのほか長いリボンは何重にも重なっており最後まで外せず、いつまで経っても彼女の素肌が見えず焦っている俺に最上さんは、甘美な、余裕のある声でこう言った。

「私のファーストキス、敦賀さんに貰っていただいてとても幸せです。
敦賀さんのお誕生日プレゼント、何が一番喜んでもらえるか考えたのですが、きっと食事よりも私自身を召し上がっていただくのが一番満足していただけるんじゃないか、って思ったのです。今夜は帰りませんからたっぷり時間はあります。夕食代わりに私を食べ尽くして下さいね。」

ああ、最上さん。恋愛を頑なに拒んだ君がそんな事を言うなんて。
一瞬目を見開いたが、次の瞬間もう何も考えられず、リボンの事などどうでも良くなり、先程そっと触れただけの唇に、今度は深く貪るような口付けをし、二人でベッドになだれ込み、そのまま蕩けるような感触に満たされ。
本当に幸せな瞬間だった。
…のだが、残念なことに覚えているのはここまで。気付いたらベッドの中で一人、両腕で枕をぎゅっと抱きしめている自分がいた。枕を最上さんと思い込んで眠っていたのだろう。
夢だったのは残念だけど、最上さんに「私をどうぞ」と言ってもらえる夢を見ただけで喜んでいる自分の次元の低さは社さんに言えたものではない。
デビュー以来毎年誕生日にはファンや共演女優等からお祝いをもらうけど、嬉しいという気持ちは芽生えたことがない。欲しい物は金を出せば手に入れることが出来るし、他人から色目を使われプライベートに干渉されることの方がむしろ鬱陶しかった。
でも今年は違う。社さんの突っ込みは逃れたけど、最上さんから何か貰えるのではないかと期待せずにはいられない。勿論「彼女自身が欲しい」だなんて今の段階では言わないが、最上さんがプレゼントをくれるならハンカチ一枚でも心躍ってしまうのは自分でも容易に想像できる。
昨日会った時に連想ゲームをしたのだって、ひょっとしたら俺の欲しい物が何かとリサーチしてくれたのではないか!?とまで深読みしてしまうのだ。こういう事は最悪のケースを想定していなければ、違った時にショックを受けるというのに何を期待してるんだ、俺は!
今日もダークムーンの撮影で最上さんと会えるだろうし、俺の邪な想いに気付かれないよう顔を引き締めなければ、と思う。



*  *  *  *  *  *  *


恐ろしい夢を見た。
これもきっと、モー子さんが昨日あんなことを言ったからに違いないわ!

この前、モー子さんに教えてもらった連想ゲームを敦賀さんに試してみたのだけど、全然駄目だったわ。だって、敦賀さんの最後の肝腎な回答は
『休日、睡眠、食事、最上さん』
だもの!『私』が回答って、どういう事よ!?敦賀さんには「私みたいに他人を思いやれる所が憧れなんだ」なんて言われたけど本当かしら?何か誤魔化された気がしないでもないの。そのことをモー子さんに事後報告したら
「もういっそアンタ、リボン巻いて『私をどうぞ』ってやってごらんなさいよ」
なんて言われちゃうし。だからあんな恐ろしい夢を見ちゃったのよ!




2月19日、今日は敦賀さんの誕生日。
何てことだろう、あっという間に日にちが経過してしまったわ。
「リボン巻いて『私をどうぞ』」ってやってごらんなさいよ、と言われて最初はどうしようかと思ったけど、普段忙しい敦賀さんだし家にはトレーニングルームもあるのだし、きっとサンドバックみたいな物も欲しがるだろう。だから今夜、敦賀さんの家で夕食を作る際にプレゼントを渡してみようと思うの。
私はマンションの呼び鈴を鳴らし、大きな荷物を抱えて敦賀さんに部屋へ入れてもらった。

「リボンをつけて可愛らしく飾ってみたのです・・・私をどうぞ!!!
敦賀さんの普段のストレス解消に少しでもお役にたてればと、不肖最上キョーコ等身大の人形をサンドバックとして作ってみたのです。敦賀さんにはいつもご迷惑をお掛けしているので、これを私に見立ててトレーニングの1つに採り入れて戴ければ幸いです。」

おずおずと差し出した大きな荷物は私の等身大の人形。「敦賀さん人形」や「馬鹿ショー人形」で作り慣れているから私自身の人形は大して手間でなかった。ただ、サンドバックとして使っていただくために強度のある布を探すのは大変だったけど。そして、このマンションまで運ぶのは意外と重たかったわ。通行人には変な目で見られたし。でもいつもお世話になっている先輩の誕生日プレゼントだもの、そんなこと気にしてはいられない!
敦賀さんに喜んでもらえるかしら、とプレゼントを差し出して見上げると、そこにはキュラキキュラスマイルの神々しい顔が。え、もしかしてすごく怒ってらっしゃる?

「よし分かった、最上さん。君にはいつもあれこれ相談されて迷惑だから、この際ハッキリ示してあげるね?君がそういう風に考えているのであれば、そんなサンドバックで誤魔化すのでなく、君自身が制裁を受けなければならないよ。
俺が一応君も女優の端くれだから顔に傷はつけないようにするけど、未成年の癖に深夜俺のマンションに演技指導を言い訳に訪ねてこられたり、俺そっくりの人形を許可なくマリアちゃんにプレゼントしたりして非常に迷惑なんだよ。未成年については規制されている条例も多いし誰かのタレ込みによって勘違いで警察沙汰になっては困るしね。
覚悟は良いかい?」

ああ、敦賀さんの仰ることは尤もだ。私やっぱり、敦賀さんの迷惑になることばかりしてきたんだわ。
敦賀さんの言葉を聴いているうちに手、額だけでなく全身から汗が滲んできた。怒っていらっしゃる敦賀さんと目を合わせるのが怖くて、ずっと俯いていた。
ごめんなさい、ごめんなさい。先輩の気持ちに気付かずごめんなさい。
敦賀さんの貴重なお時間を奪ってしまってごめんなさい。
敦賀さんの名誉を傷つけてごめんなさい。

次に来るだろう敦賀さんのパンチを待ちながら全身の震えが止まらず、両腕で体を抱きひたすら心の中で敦賀さんに詫び続けていると。

ドーン、という大きな音が、外から聞こえ。
ガラガラガラ・・・

・・・あれ?打たれてない?

目を開けるとそこは私の下宿先、だるまやの2階で、冬だというのに寝汗でパジャマがべたついていた。
どうやら音は1階からで、上の棚に置いていた調理器具が崩れ落ちたのかもしれない。
夢で良かった。よく考えれば、紳士な敦賀さんがどんな理由があっても女の子に手を上げるなんてあり得ないのだから。でも、夢の中で、あの大きな腕で右ストレートを食らいそうになって敦賀さんが本当に怖かったわ!

・・・はっ、いけないわ、キョーコ!尊敬する敦賀さんを怖いだなんて。今日もダークムーンの撮りで敦賀さんとお会いするのに、顔を見て怖いと思ったら失礼よ!?あれは夢!現実じゃないのよ。モー子さんがあんなこと言うから想像しちゃっただけなのよ!もうプレゼントをさっさと決めて、あんな話は忘れるようにしなきゃいけないのよ!私の等身大の人形なんて絶対作らないんだから!




*  *  *  *  *  *  *


俺の担当する俳優は嘘吐きだ。まだ若干二十歳の癖に「日本を代表する俳優」と称されるだけあって、嘘吐きレベルも超一流。
何が、って?
そりゃ、昨日の、可愛い後輩タレントとの会話さ。
だって、その後輩タレントのキョーコちゃんが出題した連想ゲームでさ、目的の回答が
『キョーコちゃん自身』でさ。これは文字通り、『君が欲しい』って意味なのに、それを「尊敬される先輩俳優の模範解答」にすり替えて「憧れ」だって?そんな筈あるわけないのに。全くアイツは。だからキョーコちゃんに想いが伝わらずいつまでもヘタレなんだよ!

キョーコちゃんは確かにラブミー部で、人を愛することが出来ないと言われてるし実際自覚しているようだけど、蓮が本当に真剣に愛を告白すれば、最初はまあ駄目だろうけど・・・徐々に変わっていくんじゃないかと思うんだ。蓮は真面目で愛情深そうだし。外見が良すぎるのが逆に災いなんだろうなあ。アイツ、女性経験は豊富そうだけど、実は恋愛初心者だし。今まで女の子が言い寄ってくることばかりで自分から好きな娘にアタックするなんて、一度も経験したこと無いんだろうな。だから、キョーコちゃんにどうアプローチしたら良いのか全然わからないのだろうし。ある意味、イイ男というのは不幸なのかもしれない。

しかしだな、昨日のあの連想ゲームの最後の回答の『最上さん』をキョーコちゃんが勘違いして『私をどうぞv』なんてリボンつけてやってきたら・・・すっごく可愛いだろうな。今流行りのメイド服とか着ちゃってさ。モジモジしながら顔を赤く染めて蓮の前に立ち、下から蓮の顔を見上げる目線でさ。

「敦賀さん、先日の連想ゲームで『私を欲しい』と仰っていたので、お誕生日プレゼントとしてメイド服を着てきました。今日は一日敦賀さんのメイドとして食事のお世話、お風呂、マッサージとか、敦賀さんの日頃の疲れを癒すべくご奉仕させていただきますので何でも命令して下さい。」
「くすくすっ、最上さん、今日は一段と可愛いね。そのメイド服とっても似合うよ。でもそういうのでなく○○○エプロンの方がもっと素敵だと思うよ。」
「ええっ!?そうですか?
分かりました、では不肖最上キョーコ、リクエストにお答えしてやらせていただきます!」

わーっ、ちょっと待って、キョーコちゃん!未成年がそんなことしたらいけないんだよ!こんな場所でやらないでくれ!
蓮、お前もいくらキョーコちゃんが好きでも、それはないだろう!?

・・・なんてこと、ある訳ないよな・・・あの蓮とキョーコちゃんじゃ・・・
○○○エプロンはともかく、メイド服程度なら期待しなくもないけど。
でもな、まさか蓮、俺の言ったことに反応してあらぬ妄想したり、欲求不満で××したりしてないよな・・・

ということを想像していたら問題の主である蓮が控室に戻ってきた。
今日はダークムーンの撮影。キョーコちゃんは出番も少なくなってきたのでちょっとしか会えないけど、蓮が元気維持できる貴重な時間でもある。アイツ意外とはわかりやすい男だから、キョーコちゃんと一言でも傍で話が出来ると舞い上がって元気回復するんだよなー。食事は大事だとは認識しているけど、蓮の場合、市販のそこらのご飯を食べるなら、一食抜いてもキョーコちゃん補充させてあげた方が元気になるのは判ってきたし。

「社さん、何さっきからニヤニヤしてるんですか。」

ギクッ

そういうところは妙に感が鋭い。

「いや、今日もキョーコちゃんに会えるから蓮が嬉しいだろうと思って。」

この男は感が鋭いし頭が切れるから、余計な隠し事するのは逆に不味いだろうと、素直に吐いたのだが、蓮は一瞬の沈黙後、「そうですね」の一言であっさり終わってしまった。
ん?様子が変だよな・・・控室のパイプ椅子に腰掛け明後日の方を向き?

ふーっ

おい、何だよ、蓮!?お前耳が赤いぞ!?
キョーコちゃんに会えるのがそんなに嬉しいのか!

いや、「好きな娘に会える」というのは俺もそうだけど。嬉しいけど。
何かお前、素直になったよなー。二十歳の男らしくて可愛いぞ。お兄さんは応援してるからな、頑張れよ!

撮影スタジオへ移動すると、既にキョーコちゃんは百瀬さんとの絡みで撮影中だった。演技派と呼ばれる二人だけあるし、長期間にわたる撮影で息も合ってきたのだろう、今日はNGが全くなくトントン拍子に進んでいるらしい。この分だと撮影が早く終わり、蓮にキョーコちゃん補充をたっぷりさせられるかもと期待したのだが。

「カット、OKです!
百瀬さん、京子さんお疲れさまでした!
今から休憩10分入りまーす。」

緒方監督の声がかかり、撮影スタッフがガヤガヤと機材移動などを始めた。
ターゲットのキョーコちゃんは、というと、「未緒お嬢様」から本来の可愛いキョーコちゃんの表情に戻り、百瀬さんと何か会話している。

さあ、俺の出番だ!口実をつけてキョーコちゃんを蓮の元に連れてこよう!

「キョーコちゃん、お疲れさま!一発OKだったみたいだね。良かったね。」
「あ、社さん、ありがとうございます。敦賀さんはこれから撮りですよね。今入られたのですね?」
「うん、そう。あっちに待機しているよ。」

俺は隅にいる蓮の方を指で示すと、キョーコちゃんをあちらへ誘おうとしたのだが、一瞬彼女の表情が険しくなった・・・気がした。
「ん?キョーコちゃん、どうかした?」

「いえ、何もありません。私はこれから別の仕事が入ってるのでご挨拶だけして失礼しますね。」

あれ?キョーコちゃん、仕事他にも入ってたっけ?俺の把握しているスケジュールには無かったけど、急に予定入ったのかな?今度からもっとマメに情報収集しておかなきゃな。

入ってしまったものは仕方ない。キョーコちゃんが蓮のところに挨拶はしてくれるから、と一緒に蓮のところへ戻ったところ、蓮は、それはそれは嬉しそうな、蕩けるような笑みでキョーコちゃんを見つめていた。

おい、俺のことは目に入っていないだろう!?お前のそんな顔、他の人に見られたらどうするんだ!?
と俺は焦ったのだが、本人自覚が全くないのか、キョーコちゃんしか見ていないようだ。

しかし、この男に見つめられたらどんな娘でも落ちるよな、簡単に落ちないのはキョーコちゃんくらいだよな、と思ったのだが、肝腎のキョーコちゃんは、表情が強張っていささか顔が青白い気がする。具合でも悪いのか?

「おはよう、最上さん。」
「おはようございます、敦賀さん。」

「今日も撮影一発OKだったようだね。お疲れ様。」
「あ、ありがとうございます。」
そう言った彼女の表情はどこかぎこちない。

「ん・・・最上さん、どうかした?」
「いえ、敦賀さんこそ・・・何か怒っていらっしゃいますか?」

何だか二人とも負の連鎖というのか、様子が普通じゃないぞ?どうしたんだ?キョーコちゃんはさっきからだけど、蓮は、と振り返ると、さっきまで緩みっぱなしだった顔がどこかへ消え、キュラッとした笑顔でキョーコちゃんを見ているし。お前、何隠してるんだ!?キョーコちゃんはお前に怯えて凍りついてるんだぞ!こんな時俺はどうフォローしたらいいんだ?

自分の無能さをヒシヒシ感じながらどうすることも出来ず二人を見ていたら、

「・・・じゃあ私、次の仕事があるので今日はこれで失礼します!」
とキョーコちゃんは言うと、脱兎の勢いで去ってしまった。

えーっ、キョーコちゃん、待ってー!蓮を元気にさせる俺の計画が・・・

ハッと蓮を見るとボー然としていた。うっかり考え事をしていて途中の二人の会話はよく分からなかったが、好きな娘が自分を見て逃げて行ったも同然だし。ショックだろうな。

「蓮・・・」

「社さん、俺、変な顔していましたか?今日は最初から怯えられていた気がするんですけど気のせいですかね?」

蓮、お前もそう思うか!やはり俺の気のせいじゃなかったか。

「キョーコちゃん、確かに怯えていたよな。何でだろうなあ。
でもさあ、お前も普通じゃなかったぞ?だってさ、遠くでキョーコちゃんを見守っている表情は蕩けるような恋する二十歳の男、って感じでファンやマスコミには絶対見せられない顔だったのに、キョーコちゃんが近くに来たら、怒ってるんだか何だか分からないもの隠してるって笑顔で。何で取り繕うとしたんだよ?そのまんまのお前でいたら、キョーコちゃんの頑なな自心だってお前の熱で緩んで溶けて、お前を受け入れるようになるだろうに。」

「そんなもんですか?」

「そうだよ、傷ついた心というのは時が経てば癒されるものなんだ。理性で「人を好きにならない」と本人が念じていても、癒され満ちると心というのは自然に温かい場所、楽しい場所へと動き出すモンなんだよ。だから彼女はいつまでも恋しない娘だ、と決めつけちゃいけない。馬の骨に攫われたくないならな!
ひょっとしてお前、仮面の下に下心を隠してたとか?
昨日の今日で。『私をどうぞv』なんてメイド服姿のキョーコちゃんを想像したりして?」

「メイド服!?そんな姿なんて想像してませんよ、俺は!!」

温厚な蓮にしては珍しく声を荒げているので俺は素直に詫びた。

「・・・そうだよな、すまん、蓮。昨日はつい、『私をどうぞv』なんてリボンつけてやってきたらどうする?って言ってしまったものだから、お前がそういう妄想して夜眠れなかった、とか怒るんじゃないかと冷や冷やしていたんだ。でもまあ、メイド服で「ご主人様」なんて呼ばれるの、お前の趣味じゃないだろうし。安心したよ、俺は。」

昨日の一言は、後で怒られる可能性もあるかと心配していたけど、それは大丈夫そうだ。
一通り言うべきことを言って蓮の気が静まるかと顔を見上げたのだが、蓮は口を噤んで顔を珍しく赤らめたままだった。あれ?何故だ!?

・・・じゃあ何か他のものを想像してたとか?浴衣とか水着とか?コイツ、もしかして俺が想像したよりももっと凄いこと想像したんじゃないか?と思った。それが何なのか突っ込んでみたい野次馬精神も芽生えたのたが、さすがにもう撮影再開されそうだし、支障をきたすといけないので差し控えた。
でも・・・逃げてしまったキョーコちゃんの反応も気になるから、連想ゲームのことも合わせて後でラブミー部の琴南さんに様子を聞いてみようかな、と思う。キョーコちゃんの連想ゲームの結果とか知ってるかもしれないし、蓮の情報収集に少しでも協力できたら良いし。彼女も芸能界に入って早1年。この1年間で芸能人として随分ステップアップしたし精神的にも非常に成長しているのだと思う。あの窓の向こうには、知らず人を好きになりたい気持ちも芽生えているんじゃないかとお兄さんは想像してるんだ。



おしまい







2010年冬、Feast of eternity珠々さまの作品「窓から始まる・・・?」を読んで蓮視点の妄想をせずにはいられませんでした。微エロっぽかったので(特にこの挿絵)「こんな不埒な妄想を送りつけて良いのかしら?」と非常に迷いましたが快く受け取って下さり感謝です!そして、しっかりちゃっかり元作品を頂戴し、とても嬉しかったです。

[2011年 5月11日]

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